最高裁判所第二小法廷 昭和34年(オ)416号 判決
主文
原判決中、上告人敗訴の部分を破棄する。
本件を広島高等裁判所松江支部に差し戻す。
理由
上告代理人上原隼三の上告理由第一点について。
原審は、被上告人船田の延滞家賃額七、三五三円に対しこれを二九、九三〇円として催告した上告人の所論過大催告を無効とし、該催告に基く上告人の所論契約解除の主張を排斥しているが、右の無効をいうためには、上告人が右催告に当り前示催告額全額の提供を得なければその受領を拒絶する意思を有した点の認定判断が必要であるところ、原判示過大の程度を以てしては直ちに右受領拒否の意思を推認することはできないし、原判文上右の点の審理判断を尽した跡は見あたらない。原判決には、この点につき理由不備の違法はあるものというべく、所論第一点中これを指摘する論旨は理由がある。
同第三点について。
上告人の所論賃料増額請求の意思表示が遅くとも昭和二九年一月頃になされた事実につき当事者間に争ないことは、記録ならびに原判決引用の第一審判決事実摘示により明らかであるにかかわらず、原審は、右増額請求の意思表示の時点を所論証拠により昭和二九年三月三日頃と認定している。右争ない事実を証拠によつて認定した違法は、本件賃料延滞額の算定に影響し、従つてまた前示催告額の過大の程度、契約解除の成否に関する判断にも影響を及ぼすこと明らかであつて、この点をいう論旨は理由あるものといわなければならない。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄し、これを原審に差し戻すべく、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)